皆さんは小説家になろう掲載作品……いわゆるなろう系と、普通のライトノベルの違いをご存知ですか?両者の線引きが曖昧のまま、なんとなく読んでいる方も多いのではないでしょうか。
今回は小説家になろうの有名作品と大手レーベルのラノベ作品を比べながら、両者の違いや共通点を掘り下げていこうと思います。
小説家になろうの小説とライトノベルの大きな違い
まずは前提として、小説家になろう掲載作もライトノベルに含まれることを念頭においてください。
その中で従来のラノベの様式を踏襲した作品と、小説家になろうの潮流に顕著な作品……異世界転生・チート・追放・ざまあなどを扱った、なろう系の作品に分かれるのがポイント。
2000年代に勃興したなろう系と従来のラノベの違いを明確化する上で、老舗ラノベレーベルへの言及は避けて通れません。
日本初のライトノベル誕生は約50年前、1975年のソノラマ文庫創刊まで遡り、『グリーン・レクイエム』の新井素子や『海がきこえる』の氷室冴子が看板を背負っていました。
マンガラノベ図書館は、水野良の『ロードス島戦記』(角川スニーカー文庫)をラノベの起源として定義付けています。
その後アニメ風の美少女イラストとティーンエイジャー向けのライトな文体が合わさったライトノベルは、テレビ東京系のアニメ原作として重宝され始めます。
現在老舗と呼ばれるラノベレーベルには1976年の集英社コバルト文庫、1988年創立の富士見ファンタジア文庫、1989年創立の角川スニーカー文庫、1993年創立の電撃文庫などがあります。『とある飛空士への追憶』『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』でスマッシュヒットを飛ばしたガガガ文庫の創立は2007年に入ってからで、上記レーベルに些か遅れをとりました。
当時は個人サイトで小説を発表するのが主流でした。ラノベ作家としてデビューを目指すなら、角川スニーカー大賞や電撃大賞など、各レーベルの新人賞に投稿するしかありません。たとえ大賞を逃したとしても、運が良ければ編集者の目に留まり、書籍化することが叶いました。
この状況が変化し始めたのは2010年以降。小説家になろうやアルファポリス、カクヨムの台頭と紐付いています。
2010年代はweb小説の公開の場が個人サイトから各投稿サイトに移行し、続々と人気作家が生まれた時代でした。
なろう系とは小説家になろうの人気作に共通する、ある種パターン化された物語構造のこと。具体的な定義は多岐に渡り、今もって議論が白熱しています。
「デジタル大辞泉プラス」は、小説家になろう主催のコンテスト出身の作家、ならびにその作品群をなろう系と定義しました。『幼女戦記』の作者カルロ・ゼンは、「往還型のラノベと違い、異世界へ行ったきりなのがなろう系の特徴」と考察しました。その意見は一理あり、小説家になろうで公開された異世界転生ものには、前世の記憶を持ち越して異世界に生まれ落ちた主人公の一代記が多く見受けられます。
代表的な作品が『無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜』で、主人公ルーデウスの生誕時から壮年期に亘る、波乱万丈な生涯を書き切りました。
面白いのは小説家になろうの作品以外にもこの呼称が使われている点。小説の構造が類似していればアルファポリスやカクヨム、エブリスタやノベル+の掲載小説にも適用されるのですから、自由度の高さに目を瞠ります。
他、何の取り柄もない主人公が剣と魔法の異世界に転生・転移し、現代の知識を生かしてヒーロー扱いされるのも特徴。
小野不由美『十二国記』やあかほりさとる『MAZE☆爆熱時空』もよく似た筋立てではあるものの、テンポの良さ重視のなろう系と比べ、主人公の苦難・苦悩がより濃く描かれているのが見所です。
異世界転生はなろう系のお約束?
なろう系の特徴として、主人公が事故や事件に巻き込まれて死亡する導入部は欠かせません。現に『無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜』や『この素晴らしい世界に祝福を!』の主人公は、赤の他人を庇った結果、トラックに轢かれて命を落としています(『このすば』のカズマは轢かれたと思い込んだショックで心停止)。
この展開は俗に「トラック転生」と呼ばれ、なろう系のお約束といっても過言ではありません。後輩を庇って通り魔に刺された『転生したらスライムだった件』、神様の手違いで雷を落とされた『異世界はスマートフォンとともに。』も、トラック転生の亜流として位置付けられます。
今際の際に善行を成した褒賞として、チートスキルを授かるケースも多し。主人公の共通項としては、前世(現代日本)の生活に未練がないこと、異世界への適応力が優れていることが挙げられます。
前世の典型的パターンはいじめられっ子、ひきこもり、無職、ブラック企業の社畜、もとから病弱で寝たきりだった……など。
故に回想パートは切り詰められ、セカンドライフを豊かにしていく過程に焦点が当たりがち。前世でさんざんな辛酸をなめてきたからこそ、そのコントラストによって、現世の充実ぶりが強調されるのです。
前世の記憶や知識を引き継いでトントン拍子に成果を上げるのも王道で、主人公が目標達成の為に悪戦苦闘する修行シーンは、読者に無駄なストレスを与えるとして省かれる傾向にありました。
転生・転移先がMMORPGや乙女ゲームの世界であり、パラメータやスキルなどの能力値がデフォルトで備わっているのも特徴。
作中キャラがステータス画面を任意で開示・閲覧できる点は、2010年代以降に浸透した、オンラインゲーム文化の影響を強く窺わせました。
死後の世界で主人公と対面し、特殊スキルを授ける人外の存在も、なろう系の様式美といえるでしょうか。
神・女神・天使とビジュアルは様々なれど、『慎重勇者~この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる~』のリスタルテや『この素晴らしい世界に祝福を!』のアクアらは、チュートリアルを経てパーティーに加わったのち、メインヒロインとして物語を盛り上げてくれました。
上記のように類似作品が大量に存在する為、読者へのアピールを兼ねてタイトルが長文化するのも、なろう系の特徴でしょうか。
留意してほしいのは、これ以前にも異世界転生・転移ラノベは売り出されていた事実。古くは1984年『リーンの翼』や1996年『神秘の世界エルハザード』に『天空のエスカフローネ』、『エルフを狩るモノたち』が該当します。
従来の異世界転生・転移ラノベには能力値の概念が存在せず、転移先が架空のゲーム内、ということもありませんでした。
異世界への転移方法も偶発的な事故によらず、大掛かりな儀式に巻き込まれて召喚されるケースが主流で、いかにして使命を果たすかのドラマ性に比重が割かれていました。従来のラノベが扱っていた異世界転生のハードルを下げ、より読者の間口を広げたのが、なろう系作品のお手柄といえます。
なろう系とライトノベルの溝は消失するのか?
以上、なろう系とライトノベルの違いを語ってきました。実際のところ便宜上の区分だけで、両者に線を引く、明確な基準は設けられていません。大手レーベルがお抱え作家に依頼し、なろう系のラノベを書かせることも増えてきました。
投稿サイトから拾い上げで書籍化される例も増え、今後ますますなろう系とラノベの境界線は曖昧になっていくだろうと予想されます。自分が書こうとしている……あるいは読もうとしている作品がどちらか迷ったら、この記事で挙げた条件に当てはまるか否かで判断してください。
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