皆さんは推理小説がお好きですか?魅力的な名探偵と助手が登場し、吹雪の山荘や絶海の孤島、我々の身近な空間で起きた難事件を解決していく推理小説は、刺激に飢えた読者に最高の知的興奮を提供してくれますよね。
近年は特殊設定ミステリーや変格ミステリーと呼ばれる形式も増え、ホラー・SF・ファンタジーなど他のジャンルとも融合し、ミステリーの裾野がどんどん広がっていってます。今回は探偵と犯人の対決の行方から目が離せない、推理・ミステリーライトノベル5選を紹介していきます。ぜひ最後までお付き合いください。
霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない
著者 | 綾里けいし |
イラスト | 生川 |
レーベル | ガガガ文庫 |
発売年月 | 2021年11月 |
最初にご紹介するのは『異世界拷問姫』で鮮烈なデビューを飾った綾里けいしの『霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない』。本作は元かみさま候補で自称「劣化品」の美少女・藤咲藤花と、その助手の大学生・藤咲朔が活躍するホラーミステリー。
ビルの屋上から人間の内臓が投下される事件、不慮の死を遂げた妹の髑髏を加工して愛でる令嬢、幼い頃隣にいた幽霊のともだちと再会を望む保育士など、いずれ劣らぬ猟奇的でぞくぞくする謎が揃っています。
藤花はこの世に恨みを遺した死者の霊を呼び出す異能を持ち、被害者の死霊が犯人に復讐するシーンが大きな見所。
一方で推理はきちんと筋道立っており、人間心理の小さな違和感を解決の糸口に繋げる、巧みな構成に唸らされます。
SNSに紐付いた劇場型犯罪のエピソードも多く、身勝手な動機で他人を手に掛けるサイコパスの狂気に、背筋が寒くなりました。
漠然とした希死念慮や自殺願望を秘めて日常生活を営むキャラの描写も上手く、人生の虚しさや存在意義に悩める読者は共感が持てるかもしれません。
無自覚ラブラブバカップルな藤花と朔のいちゃいちゃぶりも最高!桜や雪が象徴する四季折々の幻想美にあふれた情景描写も素晴らしく、瞼の裏に映像が浮かびました。
GOSICK —ゴシック—
著者 | 桜庭一樹 |
イラスト | 武田日向 |
レーベル | 富士見ミステリー文庫 |
発売年月 | 2003年12月 |
直木賞作家であり、現在は一般文芸に活躍の場を移した桜庭一樹の初期ヒット作。アニメ化もされたのでご存知の方は多いのではないでしょうか。欧州の架空の小国・ソヴュール王国を舞台に、優しく生真面目な日本人留学生・久城一弥と、天才的頭脳を持った美少女、ヴィクトリカ・ド・ブロワのコンビが様々な事件に挑む本作の見所は、一弥とヴィクトリカの尊すぎる絆。
難事件を解決するたび関係が深まっていくのが、なんともじれったくてたまりません。
図書館塔最上階の植物園に居座り、最高級のビスクドールのようなゴシックドレスに身を包み、ぷかぷかパイプを吹かしながら一弥を出迎えるヴィクトリカの可愛らしさも最高!美しい顔からは想像できないドSな毒舌や、しわがれた老婆のような声すらチャームポイントに思えてきます。
ぱっと見ヘタレなようでやる時はやる一弥もかっこよく、体を張ってヴィクトリカを守るシーンに痺れました。
ヒロインの出生の秘密とリンクする不可思議な事件も魅力的で、中世の掟に縛られた森の奥の閉鎖的集落、俗世と隔絶した修道院、紳士淑女が乗り込む夜行列車、お抱え錬金術師と王妃の悲恋が伝わる時計塔を巡る、ゴシックミステリーの真骨頂の推理劇は読者の心を掴んで離しません。
ヴィクトリカと一弥が世界大戦の動乱に巻き込まれ、ドラマチックな運命を辿る終盤は、ハラハラドキドキが止まりませんでした。
マルタ・サギーは探偵ですか?
著者 | 野梨原花南 |
イラスト | すみ兵 |
レーベル | 富士見ミステリー文庫 |
発売年月 | 2003年12月 |
日本在住の平凡な少年・鷺井丸太が、学校を退学した日にカード戦争に巻き込まれ、19世紀末ロンドン風異世界に転移する本作は、名探偵・助手・刑事・怪盗・夜になると少女に変身する謎の犬がドタバタ入り乱れ、スラップスティックな掛け合いが楽しめる探偵オペラ。
主人公が異世界のコンビニに迷い込み、名探偵のカードを引き当てる冒頭からして掴みは抜群!
タイトルが疑問形になっている伏線を回収するかのように、反則級の切り札を駆使し事件にカタを付けてゆくマルタのパフォーマンスと、異世界のルールすら欺くチートぶりがとっても痛快でした。
推理をしない探偵はちょっと……と難色を示す方も、だまされたと思って読んでください。「マルタ・サギー」を「詐欺」にひっかける、作者の遊び心にニヤリとします。
全てにおいて無気力無関心で特段生きる意味や目的を持たなかった丸太が、異世界において私立探偵を開業し、利発な助手や宿敵の怪盗と出会い、名実ともにマルタ・サギーに生まれ変わる過程には胸が熱くなりました。
敵味方問わず完全な悪役は登場せず、ほぼ全員が何らかの隙や憎めない弱点を持っている為、登場キャラクターに自然と愛着が湧くのもポイント。
ジョセフ犬のマスコット的可愛らしさには頬が緩んでしまいました。もはや王道中の王道といえる、探偵と怪盗の禁断愛の行方にも注目。シリーズ中盤以降の衝撃の展開は、読者の気を大いに揉ませると断言します。
誰が勇者を殺したか
著者 | 駄犬 |
イラスト | toi8 |
レーベル | 角川スニーカー文庫 |
発売年月 | 2023年9月 |
本作は異世界ファンタジーとミステリーが融合した意欲作。発売されるや各方面で注目を集めました。
長年の戦乱を鎮め魔王討伐を為した勇者一行。その最大の功労者である勇者アレスの死に隠された秘密とは何か、パーティーの中に真犯人がいるのか……騎士レオン・僧侶マリア・賢者ソロン。パーティーメンバー一人一人に聞き取りを行うなかで見えてくる衝撃の真実、および勇者の本当の姿は、読者の胸を打ってやみません。
インタビューと回想を交互に挟む構成も上手く、取り巻きに担がれる一方で自他のイメージの乖離に悩み、迷走する若者たちの人間臭い魅力に触れ、彼等の輝かしい青春を追体験することで感情移入が捗りました。
筆者のお気に入りはコミュ症をこじらせた賢者ソロン。偏屈で陰険な毒舌家かと思いきや、人一倍友達想いなギャップにしてやられました。
各分野の天才であるのは疑うよしもないものの、驕りや慢心が原因で英雄足り得なかった三人が、凡人代表のアレスと育む友情や、それを以て人間的成長を遂げてゆくのも泣き所です。前半では存在を主張せず黒子に徹していた、インタビュアーの正体も盲点でした。
マザーグースの有名な童謡、『誰が駒鳥殺したの?』からタイトルをとっているのも意味深。叙述トリックが好きな方は、気持ちよくだまされる快感を味わってください。
薬屋のひとりごと
著者 | 日向夏 |
イラスト | しのとうこ |
レーベル | ヒーロー文庫 |
発売年月 | 2014年8月 |
アニメ化済みの人気作。花街から攫われてきた元薬師の女官・猫猫が、キレ者と評判の美形宦官・壬氏に見初められ、後宮を騒がす事件の解決に一肌脱ぎます。
本作の見所は主人公・猫猫の媚びないキャラクター。豊富な薬学の知識を用い、必要とあらば(むしろ嬉々として)毒見をし、快刀乱麻の名推理で真実に光を当てる活躍と、目上の人間にも臆さず物申す、痛快無比な啖呵に胸が透きました。宴の席での化けっぷり、機転を生かした立ち回りはお見事!
主な舞台となる宮廷・花街は権謀術数渦巻く魔窟であり、事の顛末いかんによっては国が傾くかもしれません。そこに猫猫の出生の秘密や有力な妃を擁立する派閥の思惑が絡み、水面下で蠢く計略がストーリーを盛り上げます。
猫猫を溺愛する壬氏と男嫌いな猫猫の恋模様もポイントで、両者のすれ違いぶりには爆笑しました。
まとめ
以上、推理・ミステリーライトノベル5選でした。
現実世界から異世界まであらゆるシチュを選んでみたので、必ずお気に入りの作品に出会えるはずです。恋愛を超越した探偵と助手バディの活躍を拝めるのも、このジャンルの長所ですね。
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