以下、怖さ控えめな順に小説家になろうで読めるおすすめホラー小説を並べてみました。後ろの方ほど上級者向けになっており、本格的なホラー描写が堪能できます。
『事故物件不動産』(路明)
最初にご紹介するのは第10回ネット小説大賞に輝いた路明(ロア)の『事故物件不動産』。作者のペンネームはネットロア(インターネット発祥の都市伝説。匿名掲示板・ブログ・チェーンメールなどを介し、不特定多数の人間に流布される。インターネット+フォークロアの造語)が由来です。
真夜中まで営業する華沢不動産。そこは因縁深い事故物件を専門に取り扱っている、曰く付きの店舗でした。
基本は一話完結、『世にも奇妙な物語』風味のオムニバスで、華沢不動産に物件を紹介された客や、ふとしたきっかけで彼等と関わりを持ってしまった人々の不気味な体験が綴られていきます。エブリスタでも同時連載されているそうです。
本作の最大の見所は伏線回収の巧みさ。さりげない日常描写に違和感を混ぜ込むのが上手く、住人に忍び寄る怪異の気配に背筋がぞっとします。
文章は軽快で読みやすく、「怖すぎるのはちょっと……」なホラー初心者にも安心して勧められます。
『見たら絶対に死ぬ”呪いのビデオ”を手に入れたのに、幻のマイナー規格”HD-DVD”に録画されてるせいで再生できません(泣)』(大萩おはぎ)
お次に紹介するのはいかにも小説家になろうらしい、ラノベ風味のホラー。ギャグとシリアスのバランスが絶妙で、読んでいると自然と笑いがこみ上げてきます。
本作の主人公は無類のオカルトマニアである女子高生の「ぼく」。心臓発作で死んだ祖父の形見として呪いのビデオを譲り受けた人物の相談を受けた「ぼく」もまた、強力な呪いに感染する羽目になるのですが……。
本作の見所は「ぼく」と先輩のコミカルな掛け合いとラブコメ展開。主人公はオカルト大好きなぼくっ娘で、オカルト否定派の先輩はアニオタ陰キャ眼鏡の理屈屋。
キャラの立ちまくった二人の漫才は愉快痛快で、それがストーリーに緩急を生み出しています。言わずもがな、呪いのビデオのモチーフとなっているのはJホラーの傑作『貞子』です。
なお本作は『オカルトマニアのぼくっ娘と陰キャオタクな先輩のラブコメホラー(仮)』シリーズの一編なので、この話が面白かった人は、ぜひ他の短編も読んでください。
『名前のない怪物 蜘蛛と少女と猟奇殺人』(黒木京也)
第5回ネット小説大賞受賞作。書籍は宝島社より刊行されており、『恋する(おとめ)の作り方』の万丈梓がコミカライズを担当しています。
主人公は冴えない大学生の「僕」。彼が住んでいるアパートの部屋に、ある日突然黒セーラーの美少女が出現したことから、日常の歯車は狂い出します。同時に町では猟奇殺人が相次いで……。
本作の見所はエロスとサスペンスが融合したストーリー。妖しさと美しさを兼ね備えたヒロインのミステリアスな存在感は、『アトラクナクア』の比良坂初音にも通じます。テイストとしてはニトロ+の名作ゲーム、『沙耶の唄』に近いです。町に蔓延する狂気に毒され、「僕」がだんだん理性を失っていく過程は圧巻の一言。生理的嫌悪を催させる蜘蛛のフォルムが、グロテスクな美に裏返る官能的な触れ合いは、世界の裏側を覗き見ているようでドキドキしました。
『ゆるコワ!~無敵の女子高生二人がただひたすら心霊スポットに凸しまくる!~』(谷尾銀)
こちらは小説家になろうとカクヨムに連載されているホラー小説。角川文庫より書籍も刊行されています。イラストレーターは『86―エイティシックス―』が代表作のしらび。略称は『ゆるコワ』です。
田畑と山に囲まれた地方都市・藤見市。ここに住むJKコンビが市内外の心霊スポットを巡り、数々の怪事件を快刀乱麻の名推理で解決していくホラーミステリー。
元柔道部の梨沙と残念美人・茅野循バディの活躍が楽しめるエンタメ作品で、オカルトとヒトコワがバランス良く溶け合っています。『ゆるコワ』とあるものの、怪異の描写はしっかり怖いです。人の心の闇深さや事件の胸糞悪さも格別。『裏世界ピクニック』シリーズが好きな人は波長が合いそうです。
小説家になろうやカクヨムでバズるホラー小説の特徴
以上、小説家になろうのホラー小説のおすすめをご紹介しました。小説家になろうでヒットするホラーの傾向として、高校生~大学生が主人公であること、ネットやSNSを活用としていること、バディものの側面が強いことが挙げられます。
『ゆるコワ』、『オカルトマニアのぼくっ娘と陰キャオタクな先輩のラブコメホラー(仮)』シリーズ、『怪異の掃除人』シリーズなどは、まさにこれに当てはまりますね。
『ホラーデータ~ネット上に転がっていそうなサクッと読める怖い話~』はスキマ時間に読めるテンポの良さがウリ。『不動産に関わりのある仕事をしていたから知っている不気味な話』は、カクヨムの『過去の記録を紐解く』と並べて読んでほしい、良質な事故物件ホラーです。後者は『ある設計士の忌録』のタイトルで漫画化されています。
八尺様がくねくねをヌンチャク代わりにして襲ってくる『致死率十割怪談』の作者・春海水亭は、洒落怖をいじったキャッチャーな作風で、たびたびXのトレンドを賑わせています。
頭脳労働担当の探偵役と肉体労働担当の助手が、力を合わせて得体の知れぬ怪異に挑む姿は、手に汗握るハラハラドキドキな展開でもって、読者を夢中にさせてくれます。また、小説家になろうでは毎年「夏のホラー」と題した企画が行われており、その年のお題にちなんだ多数のホラー短編が投稿されています。2024年のテーマは「うわさ」でした。
どちらかといえばラノベ寄りの作風で、友情や恋愛を含む、青春ホラー小説に支持が集まっています。
背筋をデビューさせたカクヨムは現在モキュメンタリーホラーが隆盛。第9回カクヨムWeb小説コンテストにてホラー部門大賞を受賞した『Re:Re:Re:Re:ホラー小説のプロット案』(八方鈴斗(Rinto)も、この系譜に属します。エブリスタは実話怪談に強い竹書房と組んで最恐小説大賞を主催しており、因習村・デスゲーム・オカルト・サスペンスと、恐怖の方向性を多角的に掘り下げた小説を送り出してきました。
これからホラーを書こうと考えている方は、自分がどのジャンルのホラーを書きたいのか見極めてください。
まとめ
以上、小説家になろうその他サイトでおすすめのホラー小説を紹介しました。ここで取り上げた作品の共通項は、いずれもキャラが立っていること。常軌を逸した怪異との対決が主軸となるホラー小説だからこそ、読者が感情移入するキャラクターには、人間臭い魅力が欲しい所ですね。
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