あなたはライトノベルに何を求めますか?
胸躍る冒険な萌え萌えヒロインと楽しい青春を過ごすラブコメなど、読者によって夢中になる対象は違うでしょうが、人生の機微や人のぬくもりを丁寧に描いたほっこり・人情ものライトノベルには、人間関係を構築する上で大切な要素が凝縮されており、あらゆるジャンルに通じる普遍性を持っているのではないでしょうか。
このジャンルは特に登場人物の年齢が幅広いのが特徴で、様々な人生が交錯し数奇なドラマを織り成す、一種の群像劇として重層的な読みごたえが保証されています。
繊細な心理描写で綴られる感動的なストーリーはもちろん、和やかな日だまりを連想させるほのぼのした日常も、現代社会で荒んだ心を癒してくれますよね。
今回はほっこり・人情もの作品を読んで温かい涙を流したい読者に向け、筆者が厳選したライトノベルをご紹介していきます。
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田中ロミオ『人類は衰退しました』はタイトル通り、人類が衰退し文明が滅んだ終末世界が舞台。そこでは妖精さんと呼ばれる不思議な種族が台頭し、人類と交流しています。
本作の見所はキュートな三頭身ボディとファンシーなトンガリ帽子が愛くるしい妖精さんたちが巻き起こす、常識外れのハプニングの数々。
マスコット的見た目と舌足らずなカタコト喋りに反し、高度な知能と文明を持った妖精さんたちは、とにかく好奇心旺盛で楽しいことが大好き。
祖父の後を継いで調停官になった主人公「わたし」に懐き、わちゃわちゃコミュニケーションをとる光景は、幼稚園児のお遊戯を見ているようで自然と頬が緩みます。
かと思えば人類を模倣して社会を築き、宇宙にロケットを飛ばすまで発展させるなど、一旦夢中になれば無限大のポテンシャルを発揮するので侮れません。
「わたし」が生まれ育ったクスノキの里の牧歌的な雰囲気も素敵。里の人たちは皆大らかないい人で、畑を耕し果実を摘み、自給自足のスローライフを送るにはもってこいの環境でした。田舎暮らしに憧れる人は移住したくなるのではないでしょうか。
なにかと頼りなかった「わたし」が周囲の励ましや支えを得て奮闘し、妖精さんたちの尻拭いに追われながら一人前の調停官に育っていく姿も感慨深く、娘の成長を見守る親心で応援してしまいました。
見ているだけで癒される妖精さんたちの生態、自然とのびのび共生する「わたし」の暮らしぶりには憧れを禁じ得ません。
失われた雷霆鞭 チキチキ美少女神仙伝! (1)
著者 失われた雷霆鞭 チキチキ美少女神仙伝! , 嬉野秋彦 イラスト せたのりやす レーベル 角川スニーカー文庫 発売年月 1996年7月
壁井ユカコ『鳥籠荘の今日も眠たい住人たち』は、古い洋画に登場しそうなレトロなアパート「鳥籠荘」に住む、クセモノ揃いの住人たちの日常を綴った群像劇。内分けがこれまた強烈で、 妄想癖のある美女や不気味な双子、ネコの着ぐるみで日常生活を送るシングルファーザーにゴスロリ小学生と、実に個性的なキャラクターが揃っています。
本作の見所は、通奏低音として全体を貫くメランコリックで優しい空気感。鳥籠荘の住人たちは皆どこかに問題を抱え、常識を重んじる社会からはみ出し、周囲に上手く溶け込めていません。そんな好むと好まざるとにかかわらず社会不適合者の烙印を押され、「変わってる」「普通じゃない」と白眼視される住人たちを、鳥籠荘は懐深く迎え入れ、疑似家族めいた横の繋がりや安心できる居場所を与えてくれてました。
問題児の一人・衛藤キズナもそれは同じで、ひきこもりの美大生・浅井有生のヌードモデルとして雇われたことで、自身の刹那的生き方や破綻した親子関係を見直し、前へ踏み出すきっかけを掴みました。
ある事件が原因でアトリエから出れなくなってしまった浅井が、ひたむきに想いを寄せるキズナや住人たちとのプラトニックな触れ合いを通し、ゆっくり再生していく過程も胸に響きました。
壁井ユカコの瑞々しい感性が紡ぐ繊細な筆致は、ありきたりな日常を非日常に接続させるセンスオブワンダーを備え、活字を追っているだけで満ち足りた気分になります。読み終わる頃には鳥籠荘の住人たちはもちろんのこと、ままならぬ人生に迷った彼等彼女等を優しく受け入れて送り出す、鳥籠荘そのものも愛しくなっているはず。
愛さないといわれましても 〜元魔王の伯爵令嬢は生真面目軍人に餌付けをされて幸せになる〜 1
著者 愛さないといわれましても ~元魔王の伯爵令嬢は生真面目軍人に餌付けをされて幸せになる~, 豆田麦 イラスト 花染なぎさ レーベル Mノベルスf 発売年月 2022年10月
京都アニメーション制作のアニメが爆発的ヒットした『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、戦災孤児の少女ヴァイオレット・エヴァーガーデンが、依頼人の手紙の代筆を仕事とする自動手記人形として働く中で、徐々に人間的な感情を取り戻していく物語。
当初は感情が希薄で人形のようだったヴァイオレットが、心に傷を負った人々との交流を通し、ギルベルト少佐が遺した最後の意味を理解するまでの過程が大変感動的。
出征した恋人の帰郷を待ち続ける女性、亡き娘の面影に思い悩む劇作家、国交回復の為政略結婚を余儀なくされた王女、幼い娘の将来を案じる余命僅かな母親……。
ヴァイオレットとギルベルトの純愛を縦軸とするなら、横軸として織り成されるのは依頼人たちの魂の再生。
彼等彼女等がどうやって戦争の爪痕を癒し、愛する人を失った痛みから立ち直るか、それぞれの秘めた事情が心の襞に触れるような美しく繊細な文章で紡がれ号泣しました。
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町田そのこの『コンビニ兄弟ーテンダネス門司港こがね村店ー』は、九州ローカルチェーンのコンビニ「テンダネス」の一店舗が舞台のヒューマンドラマ。老若男女を虜にする魔性のフェロモン店長・志波三彦と、便利屋を営む兄・二彦を中心に繰り広げられる日常は、ささやかなハプニングに満ちていて退屈していません。
コンビニの常連や店員が抱える悩み、ご近所トラブルの解決も見所で、柔軟な物事の味方をする志波兄弟のアドバイスが追い詰められた人々の心を明るくする展開にほっこり。こっそり店長を観察しブログを書いてるパートの光莉や、自称・門司港観光大使の赤じいなど、ヘンテコなキャラクターたちが愛しくなります。
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ベテラン作家宮部みゆきが手掛けた『小暮写眞館』は、優しい空気感に癒される、怖くない幽霊もの。大規模な事故や殺人などは全く起きず、写真館を営む花菱一家の長男・英一の視点で、少し不思議な日常の事件の顛末が語られていきます。
英一が写真館に持ち込まれた心霊写真をもとに、幽霊の心残りを解決していくのが主なストーリー。切ないすれ違いや誤解が生む悲劇こそあれど、根っからの悪人は出てこない為、安心して読めました。
読み味は同作者の『今夜は眠れない』『夢にも思わない』に近く、淡い恋愛とほろ苦い別れのコントラストが彩る、仄かにセピアがかった青春の余韻に浸れます。
英一の探偵ごっこをはりきってサポートする弟、光の無邪気さにも注目。親子愛や兄弟愛、夫婦愛をテーマにしたエピソードも多く、血の繋がりを超えた信頼でしっかり結ばれた家族の絆にじんわり。
生者と死者の想いの総量に差はないと信じている方、写真が好きな方はぜひ手に取ってください。
まとめ
以上、ほっこり・人情ものライトノベル5選でした。五作品の共通点は主人公以外のキャラクターも、生き生き描かれていることでしょうか。様々な立場や境遇の人々と関わるうちに主人公の視野が広がり、新たな気付きや学びを得る展開も感動的ですね。
勉強や仕事に忙殺されている方は、今回紹介したライトノベルを読んで、心の洗濯をしてください。


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