電波な思考回路を持った悪役やヒロインが、凶悪な事件を起こし主人公を翻弄する狂気・電波ライトノベルには、我々の価値観を根底から揺さぶるような、どす黒い悪意が漲ってますよね。
善悪の境界線を曖昧にする彼等の言動に触れると、「普通」の定義が脆くも崩壊し、日常が非日常に裏返るめまいを覚えます。
一方でその常識とかけ離れた言動が、負の感情を起爆させる装置となるのも事実。
目的達成の為なら手段を選ばず、地のはてまで主人公を追い詰めるサイコパスシリアルキラーやヤンデレヒロインの危なっかしさには、地雷んでしまったハラハラドキドキが止まりません。今回はそんな中毒性抜群な狂気・電波ライトノベル5選を紹介していきます。
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浅井ラボ『されど罪人と竜は踊る』は異色ファンタジー。咒式と呼ばれる力を操り、竜や異貌のものどもを討伐する攻性咒式士のバディ、ガユスとギギナの活躍を描きます。
本作の見所はある意味竜よりおぞましく手強い、人格破綻者たちの饗宴。ガユスとギギナが遭遇する敵は思考がぶっ飛んだ異常者ばかり、その神をも畏れぬエキセントリックな言動に当てられます。
凡庸な悪意から萌芽した狂気が惨劇に育ち、膨大な犠牲者を出すエピソードの繰り返しには無力感を覚えました。
悲劇の連鎖を止めるべく奔走するガユスたちの努力は多くの場合報われず、異常者の凶行は無辜の民を巻き込んでエスカレート。
過去に助けそこねた人間が既に手遅れな敵として再登場し、主人公たちの心の支えと言える存在まで惨たらしく命を落とす鬱展開は、ラノベらしからぬヘヴィー級の容赦のなさでギリギリ胃を締め上げます。
主人公のガユスが人として健全な価値観を持っているからこそ、作中に蔓延するどす黒い狂気と底なしの悪意には戦慄を禁じ得ません。
特に印象的なのはハードボイルド色の強い短編で、殆どが後味最悪なバッドエンドを迎えます。
カルト宗教に傾倒する母親を見ていることしかできなかった寝たきりの少年の復讐、世界に救いがないからこそ人類を弄ぶ神の存在を逆説的に肯定する主張には、背筋が寒くなりました。
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綾里けいし『B.A.D.1 繭墨は今日もチョコレートを食べる』は、霊能探偵を自称するチョコレート中毒の美少女・繭墨あざかと、体内に鬼を孕んだその助手・小田桐勤の物語。
あざかのもとを訪れる依頼者は皆どこか壊れており、身勝手な動機で人を手に掛けた犯罪者も少なくありません。にもかかわらず反省の色は皆無、自分の犯行を正当化しています。
彼等の電波的言動に洗脳され、善悪の区別が付かなくなることもしばしば。
趣味で探偵をやっているあざかからしてモラルは度外視し、人の不幸や惨劇を面白がって観察するきらいがあります。
作中における唯一の良心・小田桐も、あざかの兄・あさとの計略で人生を狂わされ、社会復帰はもはや絶望的な状況です。
一巻に登場する面子からして実に強烈。飛び下り自殺した姉を自分の手で殺し直したいと切望する女性、無理心中を遂げた妻子の哄笑に悩まされる老人、地面から生えた腕に足を狙われる女子高生など、猟奇的な謎の数々が読者の心を掴んで離しません。
鮮血や臓物飛び散るゴア表現も多く、その手の描写が好きな読者は必ず満足できるはず。常識人の小田桐と繭墨の温度差も見所で、歪なバディものとして楽しめます。
てのひらのエネミー 魔王城起動
著者 てのひらのエネミー, 杉原智則 イラスト 桐原いづみ レーベル 角川スニーカー文庫 発売年月 2004年3月
誘拐事件の被害者まーちゃんと犯人の息子のみーくん。正反対の立場の二人の再会から始まる本作は、ヒロインの壊れ切った言動が印象的なミステリー。何の恨みもない小学生のきょうだいを誘拐・監禁する女子高生ヒロインなど、ラノベ界広しといえど前代未聞ではないでしょうか。
このまーちゃんのヤンデレ具合が最大の見所で、みーくん以外の存在はまるで眼中にありません。殺人未遂とリストカットの常習犯でもあり、同棲中のみーくんが目を離したら最後、窓から飛び下りかねない危なっかしさが常に漂っています。
彼女がみーくんに依存し倒すことになった背景には、過去の凄惨な事件が関係しているのですが、同じく犯人に監禁・虐待された立場でありながら、加害者の身内というだけで世間に白眼視される境遇がなかなかに辛いです。
みーくんまーちゃんが出会うひとびとも例外なく歪み切っており、その狂った論理や電波的言動に翻弄されるのがいっそ快感。彼等に共感しながらギリギリの所でこちら側に踏みとどまり、ツギハギだらけの日常を死守するみーくんの葛藤にぐっときました。
バカップルのいちゃいちゃに油断するなかれ、それは嘘と偽りで塗り固めたごっこ遊び。異常者を相手取るだけでも大変なのに、まーちゃんの暴走で日々心労が嵩むみーくんに同情します。
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神崎紫電『マージナル』の主人公は、アンダーグラウンドサイトの管理人を兼ねる高校生・摩弥京也。
過去の体験がきっかけで人間の暗部に惹かれ、自ら進んで猟奇事件に関与する彼と南雲御笠の関係が萌えポイント。
御笠と行動を共にするうち彼女に対し芽生えた殺意を隠し、品行方正な好青年を演じる京也の葛藤がサスペンスを盛り上げます。
京也のプロファイリングと犯人視点の話が交互する構成も面白く、人を殺さざる得ないほど追い詰められた心理や、執拗に狩り立てられるプレッシャーに共感してしまいました。
主人公との面識の有無を問わず、多くの人間が殺される陰惨な物語において、ヒロイン・御笠の善性は一服の清涼剤。
京也が殺意と好意を同時に抱いてしまうのも納得な、他者を疑うことを知らない純粋さに癒されます。
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一肇『幽式』は地方都市で暮らすオカルトマニアの高校生のクラスに、電波な美少女が編入してきた日から幕を開けるホラーミステリー。
ひょんなことから凸凹コンビを結成し、この世の幽かなる領域に踏み込んだ二人が、生者の悪意と死者の妄執が生み出す怪異に対峙する本作は、ラノベだからとなめてかかるとあっさり即死するホラー描写がウリ。
作者の一肇は星海社FICTIONS『フェノメノ』シリーズを筆頭に数々のホラー作品を手掛ける実力者。電撃文庫の甲田学人と並び称される逸材として、活動の裾野を広げています。
鬼畜親父から受け継いだ「血」の呪いに苦悩するトキオ、神野江がオカルトに魅入られた事情も闇深く、時として幽霊よりなお怖い、生きている人間の狂気に絶句しました。
口にした者を死に至らしめる禁呪、赤い部屋の謎……アンタッチャブルな都市伝説に一歩も退かず、次々タブーを犯していくトキオと神野江の冒険がどんな結末を迎えるのか、ぜひあなた自身の目で見届けてください。読後感は不思議と爽やかで、清々しいカタルシスが得られました。
まとめ
以上、狂気・電波ライトノベルの傑作を5選取り上げました。題材的にシリアルキラーが登場する作品が多く、世間のモラルから著しく逸脱した人間性の極北が描かれ、読後はドッと疲労に襲われるかもしれません。それもまた一興ですね。
普通のライトノベルじゃ満足できなくなった欲張りな読者は、この機会に新境地を開拓してみてはいかがでしょうか。


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