皆さんは1990年代にどんなラノベが流行ったかご存知ですか?まさにその時代のラノベを読んでいた人も全く知らない人も、ラノベの黎明期を開拓してきた作品には興味がありますよね。
今回は1990年に人気だったラノベの紹介と共通項を、令和の時代と照らし合わせて徹底的に分析していきます。
昔のラノベは王道RPGものが主流?
まずは1990年代初頭に流行したラノベの紹介。
富士見書房から刊行された『スレイヤーズ』(神坂一/あらいずみるい)は、ドラゴンも跨いで通るドラまたリナ改め、最強の魔術士リナ・インバース一行の珍道中を描いたラノベ。剣と魔法のRPGをハイテンションなドタバタコメディで味付けした本作は、テレビ東京系列でアニメ化され人気を博しました。
2015年には刊行25周年を記念したアンソロジーも発刊され、人気ソシャゲ『あんさんぶるスターズ!』のシナリオライター日日日や、『魔術士オーフェン』の秋田禎信をはじめとする豪華キャストが詰めかけました。
1991年には角川スニーカー文庫から『ゴクドーくん漫遊記』(中村うさぎ/桐嶋たける)が刊行。
唯我独尊・傲岸不遜な俺様主人公の暴走が、主人公=英雄のイメージを突き崩します。
角川書店より刊行された『ロードス島戦記』(安田均/水野良)はラノベ史に金字塔を打ち立てた伝説的作品。ストーリーはJ・R・トールキン『指輪物語』ベースのオーソドックスなRPGで、様々なファンタジー種族が入り乱れた、英雄戦争の趨勢を描きました。
もともとは1988年にテーブルトークRPGのシナリオとして書かれたものですが、アニメ化は90年代。単なる村の少年に過ぎなかった主人公パーンの成長の軌跡と、美しきエルフのヒロイン・ディードリットの恋愛は、読者を夢中にさせました。
同じくテレビ東京系列でアニメ化された『SMガールズ セイバーマリオネットJ』(あかほりさとる/ことぶきつかさ)は、女性が生まれなくなった遠未来の惑星で、乙女回路を持ったアンドロイド美少女たちが活躍する話。
ライム・チェリー・ブラッドベリー、タイプ別ロボ娘が主人公と暮らすハーレムラブコメは、思春期男子の萌え心を大いにときめかせました。
宇宙人の美女軍団が地球人の少年と同居する『天地無用!魎皇鬼』(長谷川菜穂子/梶島直樹)も、根強い人気を誇ったシリーズ。
女性向けラノベとしては、駆け出し冒険者パステルと仲間たちの冒険を描いた『フォーチュン・クエスト』(深沢美潮/迎夏生)に注目。なんと全48巻に及ぶ大長編と来て、いかに愛されていたか伝わってきますね。
ご覧のように、1990年初頭のラノベは剣と魔法のファンタジー異世界ものが主流でした。現代日本が舞台の作品は少数派で、『天地無用!』シリーズもエブリディ・マジック要素を含んでいます。
90年代初頭に生まれたラノベの中には、現在も色褪せない魅力を放ち、読み継がれる名作が少なくありません。『スレイヤーズ』は三度に亘りアニメ化され、主人公リナの自立した女性像が、性別問わず絶大な支持を集めています。
1992年には講談社X文庫ホワイトハートより『十二国記』(小野不由美/山田章博)が刊行。中華風異世界に召喚された女子高生・陽子が、数々の苦難を乗り越えて一国の君主に収まる本作は、のちに一般レーベルから出し直され、読者の裾野を広げていきました。
90年代後半に突入すると異世界ファンタジー熱は冷めていき、現代日本の学園を舞台にしたSF・ミステリーが増え始めます。
そのきっかけとなったのが庵野秀明監督のテレビアニメ、『新世紀エヴァンゲリオン』。思春期の少年少女が搭乗する汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオンと、宇宙から襲来した巨大生物「使徒」のロボットバトルを描いた本作は、放送時の視聴率こそふるわなかったものの、意味深な最終回が物議を醸し、平成年代のパラダイム的な作品として語り継がれていきます。
『新世紀エヴァンゲリオン』登場の翌年、角川書店はライトノベル新人賞「スニーカー大賞」を新設。『黒い季節』にて第一回金賞に輝いた冲方丁は、その後日本SF大賞・吉川英治文学新人賞・本屋大賞・北東文芸賞を受賞し、『天地明察』で第143回直木賞にノミネートされています。
なお、異世界ファンタジーブームのピークは1996年頃というのが業界の定説。『ラグナロク』(安井健太郎/TASA)など例外はあったものの、読者の心は徐々に異世界から離れ、日常と地続きのリアルを求めるようになりました。
1998年、第4回電撃ゲーム小説大賞を受賞した『ブギーポップは笑わない』(上遠野浩平/緒方剛志)がシリーズ累計発行部数420万部のベストセラーを記録。
平凡な女子高生・宮下藤花の中に潜む別人格「不気味な泡(ブギー・ポップ)」と、世界を裏から支配する統和機構の静かな戦いを描いた本作は、独特のダウナーな雰囲気がメランコリーな世相と結び付き、多数の読者を熱狂させました。
このように90年代前半と後半では、人気ラノベの傾向は大きく分かれます。90年代前半は明るくコミカル、まさにライトノベルといった趣の作品が好まれました。一方90年代後半は、人類滅亡をほのめかす、ノストラダムスの大予言が暗い影を落とします。
バブル崩壊後長引く不況、オウム真理教が起こした地下鉄サリン事件、神戸における酒鬼薔薇聖斗の逮捕……。
それら閉塞的社会情勢がラノベ業界に影響した結果、オートマティックな傍観者スタイルを貫き、システマティックな狂言回しとして事象を見届ける主人公、ブギー・ポップが生まれたのでした。
『ブギー・ポップ』の大ヒットと前後し、コバルト文庫からは『マリア様がみてる』(今野緒雪/ひびき玲音)が、富士見ファンタジア文庫からは『フルメタル・パニック!』(賀東招二/四季童子)が刊行。
ラノベの舞台は剣と魔法の異世界から学園に移行し、十代の少年少女たちの一風変わった青春が描かれていきます。
90年代を彩った名作ラノベ総括と今に受け継がれる魂
1990年代にデビューしたラノベ作家の中には、令和の現在も現役で活躍している者が多くいます。一方で中村うさぎや冲方丁のように、ラノベ業界を離れ、一般文芸にフィールドを移した作家も目立ちます。
彼等がラノベから引退した理由は一概に言えず、ニーズ(作品やサービスに対し読者が求める潜在的欲求)とシーズ(作者が読者に提供できる商品価値や強み)のすれ違い、作者自身の関心分野の移行など、様々な要因が考えられます。
90年代の名作ラノベの知見を深めたいなら、まずは『スレイヤーズ』『魔術士オーフェン』『SMガールズ セイバーマリオネットJ』を押さえてください。
神坂一・あかほりさとる・秋田禎信は90年代のラノベ業界を牽引してきたベテラン勢なので、学ぶ所は大きいはず。
女性向けラノベに目を向ければ、1997年に刊行された『西の善き魔女』シリーズの作者、荻原規子も忘れてはいけません。『勾玉三部作』にて名実ともに児童文学作家の地位を確立した彼女も、90年代は異世界ファンタジーを手掛けていました。
なお『涼宮ハルヒの憂鬱』(谷川流/いとうのいぢ)の刊行は2003年ですが、本作が90年代のアニメ、『新世紀エヴァンゲリオン』に連なるセカイ系の学園SFであることはあまりに有名。
90年代に生まれたラノベの多くは既に完結しているものの、ラノベの話になると現在もことあるごとにタイトルが挙がり、リメイクアニメのプロジェクトやソシャゲコラボが行われています。
90年代ラノベをリアルタイムで読んでいた人はもとより、2000年代以降に生まれてまるで知らない人も、この機会に名作を読み直してみたらいかがでしょうか?


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